とりあえずやってみた

とにかくやってから、考えます

美味しいチョコのために、ココアバターの「化学的性質」を知ろう。

チョコレートの世界にハマることにしてみた。 (第7回)  

ココアバターの「化学的性質」

前回の例をもう一度。

原材料について、前回は「カカオマス」でしたが、今回は「ココアバター」のお話です。

もう一度「カカオマス」の工程のおさらいです。

カカオ豆をローストして、カカオニブを取り出し、そのカカオニブをすりつぶしたものが「カカオマス」になります。

このとき「カカオマス」はペースト状になりますが、これはカカオ豆に含まれている油脂である「ココアバター」が出てくるためです。

「ごま」をすりつぶすと「ごま油」が出てくるのと同じ理屈です。

この「ココアバター」はカカオニブに約55%含まれています。  

 

この「カカオバター」の「化学的性質」を調べてみましょう。  

まず、「カカオバター」は、常温では固体、です。

これが25℃くらいから急速に溶け始め、32~33℃近辺で完全に溶けて液体になります。 (融点は33.8℃)  

 

カカオバター」は、溶け方が「徐々に」ではなく「一気に」という性質があるので、口の中に入れたときに体温(約36℃)で、急速に固体から液体になるわけです。

これが「チョコレート」の口溶けの理由になります。

 

カカオバター」のSFC曲線

油脂が温度上昇によって固体から液体に変化していく様子を表した曲線のことを、SFC(Solid Fat Content)曲線といいます。

 

SFC 0%   完全な液体

SFC 50%  液体と固体が半々

SFC 100% 完全な固体

 

を表しています。

(引用:チョコレートの物理学)  

 

カカオバター」が「バター」と比べても液体の割合が25℃あたりから「一気に」増えているのがわかるとおもいます。

この「体温より少し低い温度で溶ける」という微妙なところが、「ココアバター」の魅力となっています。  

 

ココアバターの温度と結晶の関係

ココアバター」をさらに「化学」していきます。  

通常、油脂は融点に応じて結晶化していき、複数の型をとります。

これを「多形現象」といいます。  

 

ココアバター」も多形現象をとり、6種類の結晶型があります。  

(型)-(融点℃)-(艶)-(備考)

Ⅰ型 - 17.3 - 悪い - 不安定結晶

Ⅱ型 - 23.3 - 悪い - 不安定結晶

Ⅲ型 - 25.5 - 悪い - 不安定結晶

Ⅳ型 - 27.5 - 悪い - 不安定結晶

Ⅴ型 - 33.8 - よい - 安定結晶(製品)

Ⅵ型 - 36.3 -     -    -ブルーム(*)発生

(*)ブルームとは、チョコレートの表面が変質し、白く固まった状態のこと  

 

チョコレートに適した多形はⅤ型のみで、そのための操作としてテンパリング(温度調整)が必要になります。  

 

テンパリングはとっても微妙な作業

テンパリングは、「難しい」というイメージがあるようです。

ただ、テンパリングはとっても重要な手順でして、テンパリングがうまくいっていないチョコレートの特徴は、

・艶がない

・固まりにくく型から剥離しにくい

・口溶けが悪い

・パキンと割れない(「スナップ性が悪い」という)

・ブルームが発生する となります。  

 

理由は、先程の「Ⅴ型」の結晶でないから、と考えられています。

逆の言い方をすると、テンパリングがうまくいっていないと「Ⅰ~Ⅳ、Ⅵ型の結晶になる」といえます。  

 

基本的なテンパリングの手順は、

 

1.約40~55℃まで温度を上げて溶かす。

2.約26~28℃まで下げる。

3.約30~32℃まで上げる。

4.チョコレートを冷やして固める。

 

となります。

 

上記の通り「ココアバター」の融点が6通りあるので、

 

手順1ですべて溶かし、

 

手順2で「Ⅰ~Ⅲ型」が固まらない温度で「Ⅳ型」を結晶化させて、

 

手順3で再度加熱することにより「Ⅳ型」を溶かすと「Ⅴ型」の種結晶が生ずる。

 

手順4でこの状態から冷やすと、全体が「Ⅴ型」にくっつくようになる

 

という理屈になります。

 

(ただし、学会レベルでは、この結晶化の細かい仕組みには、諸説ある)  

 

テンパリングの難しさは、この理屈と温度管理です。

 

 

基本的な温度の時点で多少の幅があるのに、チョコの種類によって、さらに1~2℃温度の違いがあることが、テンパリングの難しさを表しています。  

 

さらに、テンパリングは「撹拌」(へらなどでかき混ぜること)という作業が必要です。

大学などの研究結果としては、『「テンパリング」だけでは、「Ⅴ型」の結晶化は遅い』とされていて、撹拌操作(「せん断応力の印加」という)が、「Ⅴ型」結晶化を早める、となっています。  

 

参照:

せん断力・テンパリングの同時印加条件におけるチョコレートの結晶化過程のその場観察

チョコレートのおいしい物理学  

 

以前記事にも書きましたが チョコレート作りは、実際には相当めんどくさい作業の連続なんですね。

 

「手作りの美味しいチョコ」が作れる人は、素直に尊敬しましょう。  

 

チョコレート検定過去問

では、今回の記事に関係する過去問です。  

 

(2016年)

問043

テンパリングとはどんな作業?

 

1.型に充填する作業

2.温度調節する作業

3.熟成する作業

4.粒子を細かくする作業

 

問044

カカオ豆に含まれている油脂の名称は?

 

1.ココアバター

2.シアバター

3.乳脂

4.パーム油

 

問045

ココアバターの融点は?

 

1.28.8℃

2.30.8℃

3.33.8℃

4.35.8℃

 

問046

ココアバターには6種類の結晶形がある。艶が良く、製品チョコレートに適した型は?

1.Ⅴ型

2.Ⅵ型

3.Ⅳ型

4.Ⅰ型  

 

解説は記事を参照してください。

 

問043 - 2

問044 - 1

問045 - 3

問046 - 1  

 

今回は以上です。

ありがとうございました。